壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

冬の犬

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冬の犬 アリステア・マクラウド
中野恵津子訳 新潮クレストブックス 2004年 1900円

ケープ・ブレトン島に暮らす人たちの、平凡にして数奇な日々が語られます。静かに胸に迫る物語は、カナダ東海岸の厳しい冬の風に立ち尽くす灯台のように、かすかに温かくて力強いのです。

すべてのものに季節がある(1977) クリスマスになると島に帰ってくる長兄を、家族の皆が誇りにし、帰りを待ち望んでいる様子が、美しい描写で表現されている。
二度目の春(1980) 農場に暮らす少年の生活が生き生きと描かれます。あんなに苦労して種付けしたのに生まれた子牛は純血種でなかったと、心底がっかりした少年は、それでも新しい世界に目を向ける。
冬の犬(1981) 12歳の冬に、命を賭けた経験を共有した飼い犬との別れはあまりにも切ない。
完璧なる調和(1984) 家族を失ってなお一人で生きる寡黙な老人は、ゲール語に誇りを持っている。
鳥が太陽を運んでくるように(1985) ある男と灰色の大きな犬の悲劇的な係わり合いは一族の伝説となった。
幻影(1986) 11歳の双子の兄弟が、母方の祖父母の家を訪ねた時の話。複雑な人間関係を垣間見る。
島(1988) 1人で小島の灯台を守り続けた女の半生。過酷であったが清々しくもあった。
リアランス(1999) スコットランドにルーツを持つ伝統を守って暮らしてきた島の生活にも、変化が訪れた。

読み終えて余韻に浸ることのできる作品ばかりでした。もう一度長編「彼方なる歌に耳を澄ませよ」を読みたくなりました。