黄砂の季節ではありませんが、今年の春に黄砂がひどいというニュースを聞いて気になっていました。この本によれば、西暦2000年を境に黄砂が増加し、東アジアでの大規模な黄砂発生は社会問題となったそうです。北京で発生した大規模な被害は、内モンゴル、ゴビ砂漠の砂漠化と農耕による土地の疲弊が原因であると中国政府が結論付けています。砂漠化と洪水防止のための「退農還林」(退耕還林)という政策は、国家的命題と聞きました。
日本では「春の風物詩」程度である黄砂は、韓国では小学校が休校になるくらいひどく、中国内陸部にいたっては黄砂発生の原因である黒風(カラブラン)で子供が亡くなったりするそうです。黒風というのは一種のダウンバーストです。雷雨に伴うダウンバーストとは異なり、乾燥地帯では砂塵嵐となって黄砂が上空2-3キロまで舞い上がり、韓国、日本ばかりか、太平洋を渡ってハワイや米国本土まで到達する事があるそうです。
黄砂のような風成塵は中国に限らず世界各地にあって、人間の歴史に深く関わっています。そんな事が書かれているのが、本書。文学書に登場する風成塵にまつわる話は面白かったですね。風神や雷神は五穀豊穣をもたらす神であるとか、ヘディンの「さまよえる湖」に出てきた黒風、スタインベックの「怒りの葡萄」の舞台となった1930年代の大旱魃による砂塵ダストボウルなど。
サハラ砂漠からの塵は古くにはイスラエルを「蜜とミルクの流れる土地」にしたことなど、被害のみをもたらすイメージのある黄砂や風成塵が、実は土壌母材の供給源となって豊かな農作物をもたらし、海に落下して栄養塩類を供給し豊かな漁場を維持しているということです。