壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

林檎の木の下で

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林檎の木の下で アリス・マンロー
The View from Castle Rock  Alice Munro 2006
小竹由美子 訳 新潮クレストブックス 2007年2300円

予約していた本がきました。「イラクサ」と同様、Hatano Hikaruさんのイラスト。ボタニカルアート風の素敵な表紙です。原書の表紙は 「The View from Castle Rock」という題名にあわせて、こんな感じに地味な装丁です。左から、アメリカ、イギリス、カナダ版です。
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「林檎の木の下で」の方を邦訳名にしたのは、女性読者を強く意識しているようにも思えます。また昔話モードですが、ジョン・ゴールズワージー「林檎の樹」(右は集英社文庫版)という小説があります。それを題材にした少女漫画「林檎の樹」を読んで、他の少女漫画とは異なる描き方が気になり、原作をさがした記憶があるのです。ジョン・ゴールズワージーは1932年のノーベル文学賞受賞者です。イメージ 3

それにしても、あの漫画の作者は誰だったのか、いつごろだったのか、全く思い出せません。誰か覚えていないでしょうか。小説は図書館にあるので、再読しようかな。でも記憶の中にある本とは違うでしょう。内容は変ってなくても、数十年もたてば、読むほうが大きく変っているはずです。下の紹介を読むと、如何にもというような純愛小説なのですが。

ジョン・ゴールズワージー「林檎の樹」 内容(「BOOK」データベースより)銀婚式の記念に、アシャーストは妻のステラとドライブ旅行に出かける。途中、若い日の思い出の地に立ち寄るが、そこは26年前、アシャーストが初恋の少女メガンと熱い想いを語り合った場所だった。若き日のつかの間の歓びと戦きの一瞬を、思い出の霧の中から豊かに甦らせる牧歌。

アリス・マンローに戻りましょう。作者自身のまえがきにあるように、今までの短編小説とはかなり趣きの異なるものです。アリス・マンロー自身の祖先がスコットランドからカナダ東部へ移住して、原野を開拓したこと、そして一人称で書かれた自伝的短編からなっています。

マンローに言わせれば、真実の物語の輪郭に収まってはいるが、家族史といえそうなところはフィクションにも広がり、現実ではやらなかったことをやってしまう部分もあって、これは短編小説だそうです。家族史というのは、得てして、そんなものかもしれません。話としてつい面白くしてしまうとか、都合の悪い事は避けてしまうとか、昔の出来事については、記憶は容易に書き換えられてしまうのでしょう。

移民として原野の開拓に向かう話は、北米に入植した家族・血族に共通の思いがあるのでしょう。私は、「インガルス一家の物語」くらいしか思い出さないのですが、この時代の物語は他にもたくさんあるはず。レイドロー一家の物語は同じファーストネームの人物が繰り返し出てきて混乱するので、斉藤孝氏が「読書力」の中で薦めていた、家系図(クリックで拡大)の製作を試みました。これでいいのかどうか分かりませんが。

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この図を作ることによって、たしかに、あらすじは明確に認識できたのですが、小説を楽しむ事を忘れてしまいました。須賀敦子さんの「塩一トンの読書」にあったように、「すじ」だけを追って理解したような気になってしまうのは、小説の場合はやはり避けたいものです。(推理小説の場合は別?)第二部は、なるべく読むだけにしようとしましたが、家系図に欠けた名前が気になってしかたありません。

第一部は家族や血族の繋がりや営みの妙味を感じさせる物語です。第二部は少女から大人の女になる時期のいろいろな事が、実にマンローらしくえがかれています。やはり、マンローはゴールズワージーの「林檎の木」を読んでいました。もちろんL・M・モンゴメリも。歓びの白い道で、頭上を雪のように覆った林檎の花の風景は、私も忘れる事はできません。

以下、目次だけ書き留めておきます。

Part One / No Advantages
 No Advantages良いことは何もない
 The View from Castle Rockキャッスルロックからの眺め  原文ニューヨーカー
 Illinoisイリノイ
 The Wilds of Morris Townshipモリス郡区の原野
 Working for a Living生活のために働く
Part Two / Home
 Fathers父親たち
 Lying Under the Apple Tree林檎の木の下で
 Hired Girl雇われさん
 The Tickerチケット
 Home家
 What Do You Want to Know For? なんのために知りたいのか?
Epilogue
 Messengerメッセンジャー