これも、新潮クレストブックスシリーズを探していて見つけた本です。アリス・マンローの「「林檎の木の下で」と「イラクサ」を探していて、この本を見つけ、表紙に惹かれて手に取りました。アリス・マンローは、カナダ生まれの「短編小説の女王」といわれる作家だそうです。初めて知りました。
カナダの女流作家といえば、もちろんルーシー・M・モンゴメリを思い出します。時代も場所も全くちがうし、テイストもちがうのだけれども、最初の「チャドゥリーとフレミング」に出て来る、主人公より一世代前の女性たちは、アン・シリーズの「アンをめぐる人々」などのアンとは直接関係のない短編を思い出させます。イングランド系の長老派教会という共通点だけなのかもしれませんが。実在感のある人物が描かれています。
11編のどの物語も、語り手か主役が女性で、その人生のある場面が、克明に率直に、しかし淡々と語られます。劇的な出会いや別れがあるわけではないのですが、その普通の日々の中での、人生に対するやるせなさ、覚悟、あきらめ、ユーモア、やすらぎ、悲しみなどに、普遍性を感じます。描かれたほんのひと時のシーンが、彼女たちの長い人生に裏付けられているようです。読んだあと、幸せになるわけでも、癒されるわけでもないのですが、深い感慨があります。