壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

農業は人類の原罪である

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農業は人類の原罪である Neanderthals,Bandits and Farmers How Agriculture Really Began
コリン・タッジ著 竹内久美子訳 新潮社 2002年 850円

DARWINSM TODAY 進化論の現在というシリーズの一冊。「シンデレラがいじめられるほんとうの理由」「女より男の給料が高いわけ」など現在7冊出ています。今まで、竹内久美子氏本人の著作と誤解していました。訳者の趣味ですかね。邦題はかなりの意訳ですが、納得できます。

新書版で100ページにも満たない薄い冊子のような本ですから、著者の言いたいことは伝わりますが、証拠付けはほとんどありません。農耕の起源は一般に1万年前のヤンガー・ドリアス寒冷期と言われていますが、原農耕はもっと古いと考えれば大型哺乳類や狩猟民族であるネアンデルタール人の絶滅を説明できるとしています。

狩猟では、獲物を取りすぎると、労働はすぐ頭打ちになってしまう。しかし農業は環境を操作し、労働した分だけ食糧が増える。そこで悪循環が生じるといいます。食糧が増えれば、人口が増え、さらなる食糧の増産が求められます。氷河期の終焉によって海水面が上昇し、肥沃な土地を失った人々はエデンを追われ過酷な農耕に向かわざるを得なかったのです。

イメージ 2そういえば、「アダムの呪い」(ブライアン・サイクス著)に農耕文明を世界に広げたのはY染色体というような記述がありました。想像力が豊か過ぎるこの本の内容(Y染色体の系統)は、人類もしくは人種、民族の起源という面からもっと冷静に扱えばいいのにと思うのですが、また別の政治的な厄介ごとが現れるのかもしれません。




イメージ 3キリスト教文化圏における原罪という発想には、いつもなじめません。自然科学の概念を語る時宗教上の概念をレトリックとして使うのは欧米ではよくあることで、その事が別の問題を内包するのでしょう。「悪魔に仕える牧師」(リチャード・ドーキンス著)このエッセイ集は、「なぜ科学は「神」を必要としないか」という副題ですが、科学と宗教についてドーキンスの考え方がよくわかります。


ありきたりの感想ではありますが、科学と宗教は相反するものではないけれど、互いに尊重すべき別のものです。科学の形をした宗教も、宗教の形をした科学も、どちらも怪しい存在です。