壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

文明の環境史観

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文明の環境史観 安田 喜憲 中公叢書 2004年

文明の生態史観によく似た名前の本が、あったので読んでみました。環境考古学関係の人でした。

”環境考古学の観点から、自然変動に起因する民族移動と文明史の関係、小氷期の気候悪化が西欧・日本の近世期に与えた影響など、環境と文明の密接な関係を、豊富な具体的事例をもとに論証する。”というのが出版社の内容紹介です。

ただ第一章は、著者の独特の価値観が前面に出すぎてなじめませんでした。日本における従来の歴史学や地理学に対する批判が強く出すぎていて、思わず引いてしまいましたが、学問的に長い不遇の時期があったようで、まあ納得しました。

その個人的価値観は別にして、それ以降の話はとてもおもしろかった。

第二章では過去2000年の間に繰り返された民族移動が、気候の寒冷化が引き金になったという仮説は魅力的です。気候の寒冷化すると大陸(中国)が乾燥するようですが(図8)、ここ200年ばかりの温暖化は乾燥化をまねいていて、気になるところです。

第三章では、湖沼底堆積物の年縞や花粉分析から、詳細な年代や気候の分析がができるようになったことから、農耕が始まったとされるヤンガードリアド寒冷期の時期が、ヨーロッパや西アジアと、東アジア(モンスーンアジア)ではかなりずれていたこと、それ以前のベーリング温暖期では氷床に覆われなかったモンスーンアジアが先に新石器時代を迎えたことなどが、次々に明らかにされています。

第四章は長江文明についてです。黄河文明より古く、その他の三大文明と同時期に長江中流に栄えたものだそうで、今まで全く知りませんでした。

第五章は宗教・疫病の環境史ということで期待して読んだのですが、3000年ほど前の気候変動と宗教の成立に関係があるかもしれないという程度でした。疫病の方も気候の寒冷化とペストの大流行が因果関係があるということですが、ヨーロッパにおける森林破壊が結果的にペストを招き、森林を破壊しなかった日本はペストを免れたというような印象でした。なにか納得できません。第六章は日本の縄文文化礼賛。

全体的にまず”結論ありき”の議論です。この分野には興味があり、著者の専門の研究がとてもおもしろそうなのですが、啓蒙的な要素が強すぎるものはあまり読みたくないので、朝倉書店の「講座 文明と環境」 辺りがいいのかもしれません。市立図書館にはなくて、県立図書館にあるそうなので、いつかそのうちに、と思います。