壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

インフルエンザウイルスを追う 他二冊

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インフルエンザウイルスを追う
ジーナ コラーナ 1999年
渕脇耕一他 訳 ニュートンプレス 2000年 2800円

先日読んだ、スペインインフルエンザつながりで、「インフルエンザウイルスを追う」、「4000万人を殺したインフルエンザ スペイン風邪の正体を追って」、「史上最悪のインフルエンザ」の三冊を読む予定です。
乱読のはずなのに、なぜか一つのテーマを追ってしまいました。でもロジャースカーレットの本格推理も平行して読んだので、やっぱり乱読なのでしょうか。

TVのドラマ(確かドラマコンプレックス:前の火サス)の、「ウイルスパニック2006夏」というのを、録画して見ました。東京近郊の小さな市で起きた流行性脳炎の話です。録画を消してしまったので細部は思い出せませんが、蚊に刺されてから発病までの潜伏期間が血液感染のものより短いのと、中間宿主に、豚かコジュケイ、蚊以外に、陸貝?というのがちょっと変でした。感染環はどうなっているのでしょう? また血清とワクチンを混同していたのが気にはなりましたが、その他はなかなかよくできていました。

何とか共和国の離島で感染爆発した新型日本脳炎という設定だったが、マレーシアでは、1998年に、日本脳炎と疑われたニパウイルスの流行があったのは事実。このときは90万頭の豚を三週間で全て殺処分したと聞きました。(幸い蚊のような中間宿主はいなかった)でも1998年のニパウイルスの流行を題材にしたのではないらしいです。

原作は1995年の、 篠田 節子「夏の災厄」。え?篠田節子で誰?と調べたら、「女たちのジハード」の原作者でした。でもSF?ホラー?もあるとは知りませんでした。ここ二十年ほどはSFを全くチェックしていなかったので。読む本がまた増えました。

新型インフルエンザの恐怖”を説く本は、最近とても多いのですが、感染爆発による社会的混乱を予測するためには、過去の事実から学ぶことが大事なのは確かです。
SARSの感染経路に関するWHOの報告を読むと、万一対策を誤れば大変なことになるということがわかります。中国が途中で情報公開にふみきったことが大きかった。もしも中国政府が、あのまま感染拡大を隠蔽し続けたら、どんなことになっていたでしょうか。ベトナムでは感染をコントロールできたのに、カナダで感染が広がったのはなぜか。日本で発生しなかったのは、日本人の遺伝形質、清潔好きに由来するといううわさもあるが、単なる偶然でしょう。感染の拡大が、戦地など人の動きをコントロールできない地域でおきていたらどうなっただろうと思うとぞっとします。

「インフルエンザウイルスを追う」はジーン コラーナというサイエンスライターの書いたもので、1900年代当初の病原体の追及法が、人体実験であったことを明確にしていました。「日本を襲ったスペインインフルエンザ」では、病原体に関する論争の詳しい説明がなく、もの足りなかったのですが、この本では、その辺が詳しく書かれていました。しかし気になったのは、肺炎と結核の用語の使い方が変なところ。原書のせいか、訳のせいか不明ですが。

1918年のウイルス標本を手に入れるくだりは、とてもおもしろい。スウェーデン出身の医師ハルティンが50年近く暖めていた計画がどのように日の目を見るのか、ウイルスのRNA配列がどのように解き明かされるのか、ノンフィクションの醍醐味でした。

レナードの朝に出てくる嗜眠性脳炎とインフルエンザとの関係は不明だそうです。疫学的にはあるらしいのですが。また、1918年のインフルエンザによる年齢別死亡率が、w型(乳幼児、高齢者以外に、20歳から40歳の青年壮年にピークがある)になる理由は、類似ウイルスによる免疫の獲得と関係があるのか、免疫系の過剰反応が個体の死を招くのかは不明(第10章)であるなど、詳しい説明がありました。スペインインフルエンザの不気味なところは、この青年壮年に死亡率のピークがあることで、日本では相撲界で、まず力士の間で流行った記録があるそうです(これは「日本を襲ったスペインインフルエンザ」にありました。)

四千万人を殺したインフルエンザ スペイン風邪の正体を追って ピート・デイヴィス 1999年
高橋健次 訳 文芸春秋 2089円

1997年の香港で広がった鳥インフルエンザウイルスの話から始まりますが、スペインインフルエンザのウイルス標本を探す試みが主題で、永久凍土から遺体を発掘しようとして失敗したダンカンのチーム、トーベンバーガー(タウベンバーガー)やフルティン(ハルティン)の成功が、わかりやすく紹介されています。1976年の豚インフルエンザに対するアメリカの混乱についても、「インフルエンザウイルスを追う」と同じようなテーマでした。同じ頃の、同じような内容ですが、こちらの方が短くて読みやすいと思いました。

史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック アルフレッド・W・クロスビー1976年
西村秀一 訳 みすず書房 2004年 3800円

スペインインフルエンザに関する古典です。1976年に、歴史学者クロスビーによって書かれたもので、1989年に改題されています。格調高い内容で、読みごたえがあります。図書館で借りてきましたが、期限内には全部読めそうもありませんので、今回は拾い読みします。どのようにインフルエンザパンデミックが広がっていくのかの克明な記録が第一部~第三部にありますが、第四部と第五部だけ詳しく読みましょう。

死亡数を推定するときの超過死亡統計、新型インフルエンザの悪性化、青年層での死亡率上昇、病原体をめぐる論争、人獣共通感染症としてのインフルエンザについて言及され、問題提起がなされてます。
また最後で、人の記憶の奇妙さについてという結びの章があり、スペインインフルエンザのパンデミックが忘れ去られた理由に対する考察がなされています。要するに第一次世界大戦の陰に隠れてしまったということのようですが、当時すぐにはウイルスという病原体の実体がつかめなかったことも原因だったのかもしれません。

訳者あとがきにクロスビーの「ヨーロッパ帝国主義の謎-エコロジーから見た10~20世紀」岩波書店198年があるそうです。読みたい本がまた見つかりました。