『闇の奥』をまだ読んだことがないのはいかがなものかと(笑)、岩波文庫を寝かしてあるのですが、いかんせん老眼には目の毒というばかりに字が小さくて読了に至りません。新訳を見かけたので再挑戦。字がかなり大きくなっていますし、訳文もわかりやすいようです。きちんと読んだことがないわりには何だか予備知識があったりして、それがかえって面白さの邪魔をしているかもしれないと思いました。
気軽な気持ちで蒸気船の船長として冒険に出かけたマーロウが、未開の奥地で出会ったものは文明を拒絶する底知れぬ恐怖をもつ密林だった。高邁な人物であると評判のクルツを救出するために河を上ったが、そこですでに変貌したクルツに出会った。
マーロウの語り口はわかりやすくて軽妙で、でもその描写はとても力強くて魅力的です。冒険譚であるかのように思えたのに、記述は曖昧で断片的なので、理解しがたくて足元をすくわれるような気がします。でも登場人物は皮肉なユーモアをもって描かれているのでかすかな笑いを誘う部分もあり、凄惨な場面さえ法螺話のようにも思えます。クルツの最後の言葉を彼の婚約者に伝えようとしたマーロウがついにそれを果たせなかった場面は、滑稽な状況でもあると同時に絶望でもあるような・・・よく分からないのに妙に気になるタイプの物語です。