壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

神曲

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神曲 原作 ダンテ
挿絵 ギュスターヴ・ドレ 訳/構成 谷口江里也 
JICC出版局 1989年 3800円

須賀敦子さんのイタリアに魅せられ、イタリア文学の原点である「神曲」を読みたいと思ったのですが・・・・読んだのは、一日で楽しく読める絵本のような神曲でした。ギュスターヴ・ドレの挿絵が100枚以上あって、抄訳ですからあっという間に天国に到着してしまい、巡礼の旅ではなく、観光ツアーのようでした。永井豪の「神曲」という手もあるのですが図書館にはないし、漫画喫茶は田舎にはありません。

古典文学をこのような形で読むことに多少の後ろめたさがあるのですが、とにかく面白かったので、全文はまた別の機会に読むことにしましょう。

地獄といえば、黄泉の国という選択肢もありますが、三途の川に賽の河原、閻魔様に血の池地獄のイメージが先行する異教徒にとって、ドレの版画は迫力満点です。はじめて西洋の地獄の有様を見せていただきました。天国編は挿絵が少ないのですが、天に輝く光の文字などは、14世紀の人にとっては天国のイメージなのでしょう。現代の我々にとっては、大画面のCGの圧倒的な映像を見せられているようです。

神曲」はファンタジーの原点なのだということを実感しました。ドレの挿絵はもうパブリックドメインなのでProject Gutenbergで全部見られます。

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ボルヘスの「神曲」講義 J・L・ボルヘス
竹村文彦訳 国書刊行会 2001年 2400円

ドレの絵がイメージとして定着してしまいそうなので、ウィリアム・ブレイクの挿絵が入っている『ボルヘスの「神曲」講義』も読みました。ブレイクの挿絵に関してボルヘスの言及はありませんでしたが、ドレやボッティチェリの絵よりはずっとボルヘス的でしょう。

訳者によれば、ボルヘスはイタリア語を知らなかったけれど、英語とイタリア語の対訳を読み続けるうちに、イタリア語が理解できるようになったそうです。さらにボルヘスは、神曲にたいする多くの評釈や注解を楽しみながら読み続けたそうです。

この本は、ダンテの神曲の多くの評釈にたいするさらなるボルヘスの評釈であり、ボルヘスの文に対して訳者である竹村氏がさらなる評釈を加え、ボルヘス自身が自分の文に注解をつけていて、その注解にまた訳者が訳注をつけるという、これもまたボルヘス的で面白い本でした。

第四歌の高貴な城/ウゴリーノをめぐる贋の問題/オデュッセウスの最後の旅/慈悲深い死刑執行人/ダンテとアングロ・サクソン人の幻視者たち/「煉獄篇」第一歌一三行/スィーモルグと鷲/夢の中の出会い/ベアトリーチェの最後の微笑