壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

原稿零枚日記 小川洋子

イメージ 1

原稿零枚日記 小川洋子
集英社 2010年 1300円

原稿がちっとも進まない小説家の日記という形をとった小説です。日常が奇妙にねじれて、別の世界へ向かってなめらかに逸脱していくありさまに、期待感と不安感で心が騒ぎます。短編集『妊娠カレンダー』に共通した不思議で魅力的な、小川洋子さんの独特な世界です。

取材旅行先の山深い温泉の苔料理専門店でフルコースを食べ、子供時代の住んでいた家の間取り図が巨大なものになり、祖母の右肘に棲むわこさんとネネさんを思い出し、もぐりこんだ隣町の小学校の運動会の借り物競争に出て学習ノートをもらい、名前を思い出せない有名作家の作品を盗作したかもしれないし、役場の生活改善課のRさんにトランペットを吹いてもらったり、公民館のあらすじ教室の講師をつとめるあらすじ名人だったり・・・・・・・・・

小説とはいってもとらえどころの無い、あらすじのかけないような内容ですが、一つ一つのエピソードがあまりに印象的で鮮明なイメージを持っています。現代アートの見学ツアーの話にドキドキ。集合時間に遅れるという不安が見事にふくらんでいます。夜眠れないときには図鑑を書き写すなんて、私もやってみようかと思いました。『深海魚 暗黒街のモンスターたち』って実在する本ですね。深海魚好きなんで・・・・