壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

パイド・パイパー 自由への越境  ネビル・シュート

イメージ 1

パイド・パイパー 自由への越境 ネビル・シュート
池央 訳 創元推理文庫 2002年 700円

『渚にて』が良かったので、もう一つネビル・シュートの作品を読みました。映画にもなっているそうです。古き良き英国の冒険小説ですが、主人公たちはは老人と子供。活劇はまったくないのにスリルがあって、ユーモアと人間味があふれている楽しい作品であると同時に、戦争の理不尽さをも伝えているロードノベルです。

傷心を癒すため、ジュネーヴに程近いジュラの山村に釣りに出かけた老弁護士ハワード70歳。でもハワードがロンドンを発った1940年4月10日には、ドイツがもう北欧侵攻を始めていました。ジュラ山脈の渓谷釣りができるのは5月末になってからですが、ハワードがブルートラウトを初めて釣り上げた日には、ダンケルク撤退が始まったのです。イギリスに帰国することを決意したハワードは、ジュネーヴ国際連盟に勤めるイギリス人夫妻に二人の子供(ロニー:八歳とシーラ:五歳)を託されます。ハワードたち三人がこの山村を出発し、列車でパリ経由カレーに向かったのが1940年6月11日。それはパリ陥落の翌朝でした。列車は止められバスは機銃掃射を受け、パリを南方に迂回して徒歩で西に向かう途中で、同行する子供の数が増えていきます。

ドイツ軍に見咎められないように、子供たちをなだめすかしての旅です。普通の状況であっても、幼い子供たちを連れての長旅はなかなかに困難です。ましてやこの状況では不可能に近いと思うのですが、70歳の老人の知恵と勇気によって、難局が打破されていきます。また、幼い子供たちは、アメリカにいるハワードの孫と同年代ですし、ニコルという若いフランス女性は息子や娘の世代です。そういう人たちに接するハワードの心情もうまく描かれています。

1942年、なんと戦時中に出版された本だそうで、当時のイギリスとフランスやアメリカとの関係が窺え、戦況に照らし合わせながら時系列を調べて読み直すと違った面が見えてきます。旅程などGoogle Mapにメモしました。