壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

鼓笛隊の襲来 三崎亜記

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鼓笛隊の襲来 三崎亜記
光文社 2008年 1400円

暖かくなったせい?か、読書が毎日一冊のペースになっていますが、そろそろ息切れ。でもこれはあっという間に読了しました。『廃墟建築士』も面白かったけれど、この9つの短編も、不思議が余韻となってどこか寂しさの残る作品で、いい雰囲気でした。
(文章の抜粋があるので、以下、かなりネタバレです。)





『鼓笛隊の襲来』赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。鼓笛隊は、通常であれば偏西風の影響で東へと向きを変え、次第に勢力を弱めながらマーチング・バンドへと転じるはずであった。
意表をつく出だしに魅了されましたが、しいて言えば最後はそんなにいい話にしなくてもよかったのに・・・。

『彼女の痕跡展』その朝、目覚めと同時に私に訪れたのは、圧倒的な喪失感だった。
自分がかつて所有していたものが展示されていたら、懐かしいのか怖いのかわかりません。

『覆面社員』労働者の精神衛生面での権利保護の観点から「覆面を被る権利」が取りざたされたのは、もう七年も前のことだ。
仮面よりも、覆面を被ったほうがずっと簡単に別人格になれそうですね。

『象さんすべり台のある街』おそらく、かつての象さんすべり台がそうであったように、どこかの動物園かサーカスで飼育されていた象が、余生をここで過ごすことになったのだろう。
かわいそうなぞう」の話は私のウィークポイントなので泣きそうでした。

『突起型選択装置(ボタン)』「我々が管理するのは、あくまでボタンです。たまたまそのボタンが彼女に付いているというだけで、はっきりいって私らは、彼女の方に興味はないんですわ」
押してはいけないボタンが背中に付いていたら、困りますねやっぱり。

『「欠陥」住宅』「主人は家にいるという言葉も、いないという言葉も当てはまらない、特殊な状態におります」
部屋が一つ消失したくらいではあまりインパクトがなくて、住宅に起きた異変といえばなんといっても筒井康隆の「融合家族」。

『遠距離・恋愛』冬の星々に混じって、上空一千メートルに浮遊する雄二の住む街が、空の高みで輝いていた。
水平の一キロは歩いて十五分でも、垂直の一キロは遠距離なのね。半年に一回くらいしか会えないというのは、南極越冬隊(古いわね。宇宙ステーションの方がいいかな)という感じで、まあしょうがないでしょう、と同情はしません。

『校庭』「気が付かなければ、良かったのにね」
クラスの中で完全に無視されている女の子と、誰にも見えない校庭の中央に建つ家。最後はゾクッとしました。無視する側とされる側は紙一重

『同じ夜空を見上げて』五年前の二月三日、下り451列車は、隣駅からこの駅に向かう途中で、763人の乗客、乗員と共に忽然と姿を消してしまった。
鉄道事故を思い出してなんともいえません。しっとりといい最後に思わず泣きそうに。