壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

悪童日記 アゴタ・クリストフ

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悪童日記 アゴタ・クリストフ
堀茂樹訳 ハヤカワepi文庫 2001年 620円

読みたいとおもっていた本をたまたまブックオフで見つけました。本を買うのは何ヶ月ぶりかしら。

場所も時代もはっきりせず登場人物の名前さえ出てこない物語が、これほどまでに印象的なのはなぜでしょうか。戦争が激しくなり、小さな町のおばあちゃんの元へ預けられた双子の男の子の生活はあまりにも過酷です。戦時を生き延びるために、小さな男の子たちは、したたかに盗みも人殺しもいとわない、非人間的ともいえる人格を自らつくりあげていきます。

双子の書きとめた記録という体裁で、そこから読み取られるのは20世紀半ばの中欧の状況。こんなに簡潔な文章から、戦争にまつわるありとあらゆる事実が浮かび上がってくるようです。物語の結末もかなり衝撃的で、続編二編はもう少し時間がたってから読みましょう。

「ぼくら」という一人称複数で語られる双子の物語というばかりでなく、感情表現を排した語り口から、すぐに「バルタザールの遍歴」「ミノタウロス」を思い出しました。佐藤亜紀さんがこの「悪童日記」に大きな影響を受けたことは想像に難くありません。