壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

廊下に植えた林檎の木 残雪

イメージ 1

廊下に植えた林檎の木 残雪
近藤直子/ 鷲巣益美訳 河出書房新社 1995年 1800円

残雪の描き出すのは、なんとも奇妙な世界です。現代中国文学を少し読もうかと選んだ本ですが、いつもほぼ行き当りばったりに図書館で借りてくるので、ずいぶんと予想外でした。

表紙裏の紹介によれば、残雪(ツァンシュエ)は1953年中国湘南省生まれ。父は古参革命家で、革命後湖南口報社社長を勤め、1957年知識分子に対する大規模な粛清にあい、右派として追放される。残雪は、「極右」の娘として小学校時代を過ごし、中学にも行けず、父の監獄近くの小屋に一人暮らしさせられる。1970年、工場に就職。製鉄工、組立工を経て結婚。 1979年、父が名誉回復されるころ、夫と共に裁縫を独学し、仕立屋を営むようになる。 1980年頃『新創作』誌に短篇「汚水の上の石鹸の泡」を発表、以来約50篇の小説を発表。とあります。

こういう生い立ちならば、納得します。

『帰り道』
広大な草地の果てに建つ家に立ち寄ると、様子がいつもと違う。暗闇の中で家は断崖の端に位置し、帰ることもままならない。最後には帰ることをあきらめて、この家に住む。
●もう、あきらめるしかないような気になりました。

『黄菊の花によせる遐かな想い』
老姜(ラオチャン)と暮らすわたしの日常、如姝(ルーシェ)と暮らすわたしの日常はどちらも、どうしていいかわからないくらい奇妙。
●こんなに脈絡のない世界だったら気が狂いそうなのに、最後に黄菊の花によせる遐かな想いが語られるのが不思議です。

『逢引』
彼と逢引するためにタクシーで無人島まで来たが、帰れなくなった。夜が明ければもう二度と会えない。
●不倫なのか、無人島の風景は奇妙な美しさがあるけれど、やはり変です。

『汚水の上の石鹼の泡』
高圧的でぼくを怒鳴る母親がお湯に溶けて、黒く濁った石鹼水になった。腐った木のような臭いを発していた。
●捨てるに捨てられないし、放置するのもいやですし、もう、どうすればいいのでしょう。

『廊下に植えた林檎の木』
ぼくから見れば、父は昆虫のような変人、妹は茶碗を食べ、母は箱の中で寝る。妹の婚約者は水槽に隠れる。妹からみればやはりどの家族もおかしい。婚約者は天井からぶら下がり、兄は台所の隅で蹲る。婚約者からみた家族もおかしい。母は最も大事にしていたラクダを失って子どもたちを信用できない。父親は死んでいるらしい。この家の廊下には秘密があるらしい。
●中篇なので、話の筋があるように見えますが、歪んだ家族関係という以外、ほとんどわけがわかりません。このはなしを読んでいる途中にうたた寝をしたら、変にリアルな夢を見ました。台所の床(土間のようなところ)で眠ってしまい、傍に爆発したスイカがあって、赤い中身が飛び散っていました。今日は寒いくらいなのに、大きなスイカを注文したということが頭にあったからでしょう。この中篇、幻想文学というようなものではなくて、日常生活が歪みに歪んでしまったようなもので、身近な不安感が惹起されるのかもしれません。

残雪の作品は、河出の世界文学全集で出たばかりのようなので、そこで解説を読みたいと思います。