壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

月が昇るとき グラディス・ミッチェル

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月が昇るとき グラディス・ミッチェル
好野理恵訳 晶文社 2004年 2400円

ワトスンの選択ウォンドルズ・パーヴァの謎と読んできたミセス・ブラッドリーシリーズ。グラディス・ミッチェル本人の、もっともお気に入りの作品が、本書「月が昇るとき」だそうです。サイモン少年の目線で描かれた詩情豊かでみずみずしい作品でした。既読の二作品とは印象がずいぶん異なりますが、そういえば、どちらの作品にも少年たちが登場して重要な役割を果たしていました。

13歳のサイモンと11歳のキースは小さな運河の町に住む兄弟です。両親はすでに亡く、兄夫婦と住んでいます。復活祭の日、町にやって来たサーカスの会場の偵察に出かけた二人は、運河の橋で怪しい人影を目撃しました。翌朝、ナイフで切り裂かれた女綱渡り師の死体が発見され、若い女性ばかりを狙う連続殺人事件となりました。

兄ジャックにかけられた容疑を晴らし、事件の真相を探ろうと決心したサイモンとキースは、夜の冒険に乗り出しました。夜の町は月光のもとで幻想的な風景となり、少年たちの心には期待と不安が交錯します。美しい下宿人クリスティーナに対する思慕と、周りの大人たちに対する反発などが、静かな筆で描かれています。事件後何年も経ってから回想的に書かれたという設定で、少年の日に対するノスタルジーに溢れていました。

少年たちが骨董屋で出会った不思議な老婦人こそ警察の顧問をつとめるミセス・ブラッドリーでした。切り裂き魔による連続殺人は意外な方向に進んでいきます。サイモンとキースの兄弟がある家の裏庭で見たもの、二人に迫る危機など、大詰めではらはらドキドキの場面もあって、優れたYAの作品ともいえるでしょう。あと唯一手に入る「ソルトマーシュの殺人」が楽しみです。