壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

Y氏の終わり

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Y氏の終わり スカーレット・トマス
田中一江訳 早川書房 2007年 2000円

博士課程の研究テーマに関連した、“呪われた”本『Y氏の終わり』を書店で見つけた大学院生のアリエルは、その中に書かれていた飲み物のレシピを試してしまった。次々と他人の思考に入り込み、時間遡行さえ果たすトロポスフェアと称する不思議な世界に紛れ込む。本を狙う男たちに終われる身となり、逃亡の旅にでるのだが・・。

ミステリの興奮、SFの思索、ファンタジイの想像力というのがハヤカワの売りです。たしかに・・

世界に一冊しかない本を見つける古書ミステリのスタイルから入っていくのだけれど、SFなどでよく見かけるポストモダン風の議論がメインテーマかと思いきや、ホメオパシーなんていう擬似科学がでてきて、アリエルが主人公のロマンス小説風で、なぜか哲学風でもあり、ラスロップのマウスなんかはピンポイントでマニアックだし、トロポスフェアでの行動はコンピューターゲームみたいで、最後は・・うーん、ナルニアかあ?

いろいろな手法が混ざっていてとりとめがないけれど、なぜか面白かった。メインテーマはアリエルという若い女性の生き方なんでしょうが、いくつもの全く異なる場面を自在に行き来し、少し投げやりな感じで刹那的に生きているようにみえるアリエルのキャラクターが、実はそんなに悪くないからなのかもしれません。

この作家の本は他にはまだ翻訳されていないようですが、Lily Pascale mysteryという三部作もあるらしい。面白そうなので、早川さん、お願いします。