壊れかけたメモリーの外部記憶

読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

エピデミック

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エピデミック 川端裕人
角川書店 2007年 1900円

バイオハザード物が好きだということもありますが、久しぶりにゾクゾクする面白さでした。川端裕人さんの作品は初めてですが、一日で読み終えてしまいました。科学的な記述が(たぶんネ)正確で、いわゆるバイオホラー(法螺)ではないところがいいですね。

重症のインフルエンザ患者が出始めた東京近郊のC県T市(館山市かな)で活躍するフィールド疫学の専門家たちの話です。現場で、患者や比較対照となる健康な人々を調査し、要因を統計的に分析して感染源が何かを突き止めていきます。感染源がひとつならば、こんなに簡単な計算でいいのか、というくらいわかりやすいものでした。どんな曝露要因を選ぶかということの方が重要なんですね。「夏の災厄」篠田節子)も保健所の職員の活躍する面白い本でしたが、それ以上かなと思います。

海と山に囲まれたT市には疑わしい野生生物がたくさんいるうえ、動物愛護団体や謎の集団や怪しい飲物があって、感染源を突き止めるためには、可能性をひとつづつ消していく疫学的な方法(蓋然性に基づいた推論)しかありません。ウイルスを特定し分離するウイルス学は、初期の流行をコントロールする手段としては有効ではないのです。もちろんウイルスを特定する事は重要ですが、ウイルスがわかってもすぐにワクチンや治療法が見つかるわけではありません。(だから映画「アウトブレイク」の最後には不満足でした。)

最初にT市に乗り込んだNCOC(集団感染管理センター)の研究者島袋ケイトを初め、同僚の仙水、恩師の棋理、所長の御厨、地元総合病院の医師高柳、保健所員小堺、新聞記者赤坂。どの人物も個性的に書き分けられています。重症化し死亡する患者は主に成人でした。取り残された子供たちだけの集団生活の部分は少し違和感があったけれど、作者の子供に対する眼が暖かいのが印象的でした。厚い本でしたが、盛りだくさんの内容で、謎解きというミステリもたっぷりと楽しむことができました。他の作品も読みたい作家です!