壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ベルリン1919

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ベルリン1919 クラウス・コルドン
酒寄進一訳 理論社 2006年 2500円

1943年ベルリン生まれの作家コルドンの「転換期三部作」の一作目です。著者コルドン自身は東ドイツで成長したのち1973年西ドイツに亡命し(一度は逃亡に失敗して勾留されている)、その後作家活動を開始しています。

三作とも600ページに及ぶ厚い本ですが、児童文学(中高生向きのYA)の範疇に入る作品ですので、文章も読みやすく、注やあとがきに歴史的背景が丁寧に解説されていてわかりやすく中味も濃いばかりか、字が大きいので、ヤングアダルトだけでなくオールド・・にも最適です。

1918~1919年冬のほんの三ヶ月ほどの物語です。ベルリンに住む12歳の少年ヘレの目を通して、第一次大戦直後に帝政が崩壊したドイツの混乱(11月のドイツ革命と1月のローザ・ルクセンブルグたちの死によって革命が潰えるまで)と、それに巻き込まれるヘレ一家の暮らしが描かれています。

父さんは片腕を失って除隊し、母さんは一家を支えるために朝から晩まで働きに出て、ヘレは学校から帰ると幼い弟妹の面倒をみなくてはなりません。一家の住む町は貧しい人々にあふれ、その日の食べ物もなく、冬なのに燃料が尽きてしまいました。子供にとっては本当に過酷な状況ですが、精一杯生きたいという、小さな命の輝きを感じます。

家に戻ってきた父さんには職がなく、スパルタクス団の政治活動に加わりました。ヘレもいやおうなく巻き込まれ、内戦状態のベルリンの様子を目の当たりにします。皇帝派の父親を持つ友人との友情と反目、父親たちの運動に関わった時の気持ち、年長の友人に対する信頼、幼い兄弟に対する愛情など、胸を暖かくする場面もたくさんありました。

第二作「ベルリン1933」は政治的な混乱に乗じたナチの台頭を舞台に、ヘレの弟ハンス(本書では生後10ヶ月のかわいいハンスぼうや)が15歳になった時の物語だそうです。是非続きを読まねば。