壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

高丘親王航海記

イメージ 1

高丘親王航海記 澁澤龍彦
文春文庫 1990年 460円

航海記や漂流記と題した作品はいつも心躍る物語です。そしてこの本は澁澤龍彦氏の遺作である唯一の長編小説のようです。澁澤氏の翻訳や評論はほんの少し読んだだけで、小説があることは知りませんでした。なんとも美しい夢のような小品でした。

高丘親王という平安時代の初期に実在した人物をモデルにした幻想小説ですが、話のほとんどは親王が航海中(漂流中)に見た夢でもあります。親王は、幼い頃に藤原薬子から聞いた天竺に強い憧れを持ち、供の者三人と航海に出ます。

その途中で出会う、不思議な動植物や人間、怪異と幻想にはえもいわれぬエキゾティシズムを感じます。死の予感を持つ親王の夢を描く、透明感のある美しい文章を書いたのは澁澤氏が死の床にあったときだということです。なんて表現していいのかわからないほど美しいのですが、生と死、歓びと哀しみが渾然一体となって漂う夢のような世界です。