壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

フロイトの弟子と旅する長椅子

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フロイトの弟子と旅する長椅子 ダイ・シージエ
新島進訳 早川書房 2007年 1800円

莫は、40歳になるフランス帰りの精神分析医。大学時代からずっと片想いだった女性が投獄されていて、彼女を釈放するために判事に賄賂を差し出さなければならないようです。賄賂となる女性を求めて莫の旅が始まりますが、実は処女探しの旅なのです。

その珍道中はドタバタの連続で、莫の夢分析は吉兆占いとしてしか理解されず、そのうち彼自身もそんな気がしてきます。成り行きから逃亡者となり、経済発展途上の小都市、未だ山賊の横行する山岳地帯などいろいろな場所で、西洋の知識が全く通用しない場面に何度も遭遇します。フランスの映画監督である作者がこれを映像にしたら、もっと分かりやすいでしょう。ドタバタの場面が文章では少し執拗いかな。

西洋の近代的知識を身につけた人間が感じる祖国中国への戸惑い、腹立たしさと愛情を、莫というさえない男の目を通して、いやみにならずに表現しています。バルザックが禁書だった文革時代を描いた「バルザックと小さな中国のお針子」とは、あまりにも雰囲気が違う悪ふざけに戸惑ってしまいましたが、未だにフロイトが禁書である中国の、西洋の尺度では測る事の出来ない後進性と、西洋を飲み込んでしまうようなしたたかなエネルギーを感じました。