壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

奇術師

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奇術師 クリストファー・プリースト
古沢嘉通 訳 早川書房 2004年 940円

ビクトリア朝後期、同じような演目で競い合う二人の奇術師、アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャの間には長い確執がありました。百年後、それぞれが残した本と日誌を、曾孫であるアンドルーとケイトが読むことになります。

ボーデンとエンジャがそれぞれに描く物語をつき合わせてみると、二人の奇術の方向性が全く違うと同時に、事実は主観的な記述によってゆがめられている事に気がつきます。多くの叙述トリックを含む文章であり、最後まで二人の真実は完全に明かされません。曾孫たちの物語で多くの謎は解決するのですが、奇妙な後味が残ります。

エンジャの奇術の意外な結果に、そういう手があったのかと笑ってしまいました。「双生児」と似たような枠組みをもち、緻密に構成されています。字が小さくて長いので読むのが大変でしたが、面白くて続きを読まずにはいられないタイプの本でした。原題の「プレステージ」で映画になっているそうですが、叙述トリックは映像化しにくいでしょうから、原作とは違う雰囲気を持つのかしら。