「山びこ学校」「石坂洋二郎に見る民主」「にあんちゃん」「なんでも見てやろう」「二十歳の原点」「田中角栄の私の履歴書」と六つのベストセラーにまつわるシーンを切り出し、それぞれに年代の異なる人たちの回想からなる小説があてはめられています。「クリスマスイブの客」「みぞれ」「思い出のサンフランシスコ」「春の日の花と輝く」「ここでなければどこでも」「時をへてもみんな嘘つき」
関川夏央さんは昭和24年生まれですから、私も同じような年代として「にあんちゃん」以降の時代を経験しているはずです。私が生まれたときの母子手帳には、粉ミルクの配給券がついていました。就学以前の写真をみると、男性の夏の普段着がランニングシャツでした。日本中が貧しかった時代が確かにありました。
いつからどのように日本が、そして日本人が変っていったのか、個人の内部記憶だけでは思い出せそうにありません。しかし、その時代の外部標準:例えばベストセラー本やヒット曲と共に時代を回想すると、何かが見えてくるようです。
あの時代に、私は何をし何を考えていたのか、懐古とはちがう、意識的な回顧を迫られているような気がします。それなのに、たいしたことも考えずに今まで生きてきたのかなあと、ちょっと情けない思いです。関川夏央「水のように笑う」という本を探してみましょう。