壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

オールウェイズ・カミングホーム

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オールウェイズカミングホーム(上 下) アーシュラ K ル グィン
星川淳 訳 平凡社 1997年 各2800円

数万年後の未来の考古学を専攻している文化人類学者が、まだ存在していない言語を翻訳したテキストや作品などの集大成。ケシュ文化の詩や歌や物語を読んでいると、やはりアメリカ先住民文化を感じます。バンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)人類学博物館の膨大な資料を見たときのような気がするのは当然でしょうか。

「石が語る」部分にはわずかにストーリー性があるが、その他は資料としてのテキスト。その資料から、自分の頭の中で世界観を組み立てる作業をするわけで、指輪物語を読んだときのようなもどかしさと魅力を持ちます。架空の異界がなぜこのようにリアリティーをもつのか、やはり作者の筆の力でしょう。

ケシュ語(巻末にはケシュ語辞典あり)を英語に翻訳したという設定になっているので、それをさらに日本語に訳していることに多少の矛盾はあるのですが、この膨大な資料を原語で読むのはちょっと無理。
 http://www.ursulakleguin.com/
のルグインのHPでケシュ音楽(楽譜が掲載されている)のサンプルが聴けます。

初めのうちは、北アメリカ先住民の近代文明化以前の生活のようですが、読み進んでいくうちに、高度に文明化した社会が、放射能汚染や地殻変動によって崩壊した、世界人口が極端に減少した後の世界であることが明らかになってきます。ケシュ文化の外側の世界は、情報ネットワークが高度に発達し、宇宙開発も進んでいるようです。

ルグィンの思想の集大成というべきもので、とてもおもしろいのですが、SFまたはルグィンに思い入れがないと最後まで読みきれない類の本です。