壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

メイドの手帖 ステファニー・ランド

メイドの手帖 ステファニー・ランド

村井理子訳  双葉社 図書館本

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シングルマザーとして貧困の中で幼い娘を育てたステファニー・ランドの手記。高等教育を受けられないままシングルマザーになり,28歳で母娘はホームレスシェルターで暮らした。そこから抜け出すために最低賃金でメイド(掃除婦)として働くステファニーは親族からの援助もうけられず孤立無援の状態だ。政府からのわずかな公的支援を得て,黒カビでおおわれるアパートで暮らしているが,貧困という泥沼から抜け出すためにあがいても,あがけばあがくほど沈んでいくのではないかと思われて胸が痛んだ。

掃除会社に不当なまでに搾取され,頑張って働いて少しでも収入が限度を超えると支援が受けられなくなるという公的な制度の欠陥があるのだ。住んでいたアパートの劣悪な環境で母娘ともども健康を害し,仕事に行くために必要な車が事故で大破した時(母娘共軽いけがで済んだが)この先どうなるのかと思った。

清掃員としての厳密なルールを守りつつも,ステファニーが不在のクライアントたちの日常を鋭い観察眼で想像する「家政婦は見た」的な部分もなかなかに面白い。でも掃除先のクライアントの家の多くでは掃除婦は居ないもの,目に見えないものとして,無視される存在だ。フードスタンプを使うたびに人間としての誇りが傷つき苦しむ。貧困がいわゆる“自己責任”ととらえられ貧困に苦しむ本人が責められる社会はアメリカに限ったことではない。

ステファニーがその泥沼から抜け出そうとしたきっかけは何だったのだろうか。自動車事故で正当な補償金を受け取り,作家になりたいという夢をあきらめずに大学の奨学金を受け,労働と引き換えにカビの生えない住居に暮らし,自営で掃除を始めて自律的に働けるように努力を重ねた結果かもしれない。ステファニーには文才があり,きっかけとなる支援や運の良さがステファニーを救ったのも確かだ。人は誰しも,ほんの少しのきっかけで貧困に陥ることがあり,そこから抜け出るのは相当に大変なことだ。貧困の連鎖を断ち切るのに本人の力だけではどうしようもないことがあるだろう。

 

電子書籍のサンプル版で読み始め,どうしても続きが読みたくなって図書館で借りました。ネットフリックスでドラマ化されているらしいのね。ネトフリには見たいドラマがいくつかあるけれど一度サブスクすると抜けられなくなりそうで今はやめておきましょう。