そして私は一人になった 山本文緒
角川文庫 電子書籍
『自転しながら公転する』は図書館の予約が満杯でしたので,文庫本になったら購入しようかと思っていたところで先月に訃報に接し,昨年NHKの朝の番組での元気なお姿を思い出しながら,いつか読もうと気になっていた作品を存命中に読めなかったことへの追悼としてまずは日記『そして私は一人になった』を読みました。著者が33歳当時の日記で,最後の作品『自転しながら公転する』のヒロインの32歳という年代に近いものです。
離婚して一人になった彼女の一年に渡る日記風のエッセイです。誰かのブログを読んでいるような自然で普通の暮らしと,その中に見えてくる不安な心情が我が事のように感じられる文章です。三十代の女性と七十代の私に具体的な共通点があるわけではありませんが,一人で暮らすことへの何かしらの共感がありました。
33歳の日記のほかに,インド旅行での仰天81歳の同行者の話,四年後(2000年)の直木賞受賞直後の日記,そしてうつ病と胆嚢手術を経て2007年の「そして私は飲まなくなった」までのエッセイが掲載されています。その最後の“不摂生な生活が生んだストレスに心も身体もぺちゃんこにされたあと、今私はやっと人生の後半をよろよろと歩き始めた気がする。人生の後半とは、どうやら前半のツケを払う時間でもあるようだ。”という言葉に胸を突かれます。