壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

キッチン  吉本ばなな

キッチン  吉本ばなな

幻冬舎  電子書籍

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30年以上前の作品を初めて読みました。時代を超えて読まれている作品だという事がよくわかります。大切な人を失った時の気持ちと,それが少しずつ癒されていく過程には,個人的な体験としては人それぞれだけれど,万人に共通するような「何か」があるのです。その「何か」が美しくわかりやすく平易な文章で描かれていて,さらに不思議な世界に連れていかれるようで,とても癒されました。両親と祖父母を失い寄る辺ない寂しさを抱えたみかげが田辺家の親子に癒され,続編では親を亡くした雄一の寂しさの寄る辺になっていくさまに元気を頂きました。

キッチンはみかげが安らげる場所として書かれています。私も台所でせっせと働くときには,夢中になっていろいろ忘れることができるし,自分が癒されていくのがわかります。台所は女の城とかそういう意味ではなく,夢中になって楽しめる所という意味でしょうか。亡き人との思い出も詰まっているし,特別ではない日常の繰り返しの行為が癒しになるのでしょう。

この本には3作品が入っています。

「キッチン」 桜井みかげが祖母を亡くして田辺家に迎えられて,さらに独立するまで

「満月―キッチン2」母親を亡くした田辺雄一の哀しみをみかげが受け止めようとする

「ムーンライト・シャドウ」 キッチンとは異なる話です。恋人を亡くしたさつきと,兄と恋人を亡くした柊との交流を描くファンタジーのような話

「満月」でみかげが雄一に届けるカツ丼のエピソードが素敵で,夜中にカツ丼が食べたくなりました。「飯テロ」っていうやつですね。高齢者は夜中にはカツ丼は食べませんが,翌朝の朝食に,カツを揚げてカツ丼を作って食べました。